2024年ですよ?
ここに来てやたらと当店で人気急上昇中のカクテルがなぜコレなのか問題ですよハイこちら。
「オールドファッションド」
なぜなんて申し上げましたがご覧の通り少しばかり見慣れぬカタチでご提供しているものですからしてそれが原因。
ライウイスキーの入ったグラスに添えますのはプレーンシュガーとビターズを染み込ませたシュガーにシナモンとクローブ、スライスレモン・ライム・オレンジにチェリーとハチミツ(このカクテルに用いるには特に異質で邪道だけどプラスαなら個人的には一番オススメ)まで付けて、あとはお好きなモノをお好きなぶんだけ混ぜ混ぜしてねなセルフ・カスタマイズ・スタイル。
大人気ってほどではないけどそこそこにオーダーのある定番のグラスをなんとなーく注文してみたら斯様なスタイルで出てきた日にはワーオつって映え―つって。
コレが特に近頃急増している外国人のお客様に見つかっちゃって連鎖して、という始末にございます。
私めを知る人からすると奇をてらったグラスを嫌う私にしては随分と変化球にも見えるでしょうが、こちとらかれこれ二十年以上前からこのスタイルでお作りしているものだから喜んでいただけるのは幸いながら今さら感もハンパなくてなんだか逆に申し訳。
もののついでにここに至った経緯やらオールドファッションドなるカクテルのウンヌンやらを語っておきますかどうですかハイ語ります。
そもそもの話しから。
まずはオールドファッションドと言うからにはそらもうオールドなファッションドなんでしょうけど正確にはどのくらいオールドなファッションドなのか?
実はこれに関しちゃけっこう具体的な指標がございます。
諸説ウンヌンのあれこれまで詳細に説明していては埒が明かないので以下ザックリ。
カクテルなる言葉が初めて明文化された説として最も有力とされているのは1806年のアメリカの新聞紙上でのこと。
その定義を当時スリングと呼ばれていた処方を例にあらゆる蒸留酒に水と砂糖とビターズを加えた刺激的なドリンクであると説明されていました。
これを起点に以降進化して変化して時は流れ1860年代。
世界初のカクテルブックも誕生し、この頃に今時でございと紹介されたカクテルたるや甘味ならプレーンシロップかガムシロップを用い、ベースとなる酒以外にその他の酒を混ぜもするし、取り分けリキュールなどは需要が爆上がりでそれ以外にもフルーツのジュースなんかも多用しちゃいます、と今のスタンダードカクテルにも通じる基礎的なところが形成されました。
というわけでオールドファッションドとはこの新定義が普及した1860年代から見てそれ以前のことを指しており、ベース・砂糖(角砂糖)・水・ビターズにまぁあってもその他にはフルーツのピールぐらいしか使わない古典的スタイルのことを言うのです。
しかしさらに時代が進むにつれて「オールドファッションド」は懐古厨が崇拝する「あの頃の処方」という意味合いを薄くし1カクテルの固有名詞としてそれに相応しくレシピも固定され、経緯や定義を理解せずとも作れるし飲めるし細けぇーこたーいーんだよ、となってからは、
気が付けば在りきであったはずの縛りプレイのルールそっちのけで薄っすら甘味と苦みを足してフルーツをデコったウイスキー(その最初期には必ずしもウイスキーベースってことですらなかったのよ)のロック?みたいなところに落ち着いたのでした。
ちなみにですが、オールドファッションドたるやチェリーとスライスレモンか、あるいはオレンジは欠かせないところみたいに思っている人も多いでしょうが、いやまぁ現代からすればそれでも十分にオールドと言えるぐらい昔のことなんですけど、これらは1930年代以降に付け足された比較的、あくまでも比較的ですよ?新しい要素だったりするのです。(1860以前のフルーツ要素はせいぜい使ってもレモンピールぐらい)
そんなこんなで以上のような余計な知識を順調に仕入れていってしまった私ですが、だからといって「コレがかくあるべきオールドファッションドでぃっ!」とドヤ顔で1860以前を再現したグラスを出すには抵抗がありました。
なにしろご注文される肝心のお客様がお求めなのはおそらくほとんど「現代風」とも言うべきフルーツありきのそれではないのか?と。
いやしかし、中には「そうそうこれこれ」なんてガチめなところをお求めのガチ勢さん、なんて方がいらっしゃったりするかも。
一々都度にお伺いするのもスマートさに欠けてくるし、割りにそのへんの雰囲気こそが大事なグラスでもあったりするし。
とか何とか言うてますけどもそもそもの個人的な疑問を盛大かつ乱暴にぶっちゃけますが「このカクテルって美味いか?」
人によって美味いの正解に振り幅があり過ぎるカクテルにしたってよ?極めて客観的にカクテルという一飲料としてよ?
色々足りなくね?
ちっとやそっとフルーツとか足したぐらいじゃ追っつかないぐらいに現代の感覚からすると色々物足りなくない?
諸々を知らないバーテンダーであろうともなぜかここだけは頑なに守られている「角砂糖一個」が根源的な問題の中心なんだろうけどさ。
1グラス分のウイスキーに対して角砂糖一個てカクテルレシピじゃなくて味ってものを組み立てる上でのバランス感覚的にしっかりおかしいよね?
そりゃまぁそのちっと足りないぐらいのところが古風でありよく言えば素朴だか質素とかにもなるんだろうけど。
そのあたりも関係してで、あとさ、なんかさ、これはもう完全に独断と偏見と認めた上で酷いこと言っちゃうよ?言っちゃうけどさ、定番のグラスだけあって巷でもまぁまぁオーダーされる割にはさ、本当に好きで飲んでますって感じ、あんましなくね?
なんとなーくそれっぽいから頼んだこうか?みたいな感じしね?
型も大事だけどなるべくならきちんと美味しいと思ってもらえるものを提供したいのだけれども、だいたいがさ、材料に不確定要素を多用するにも関わらず構成上作成途中で味見ができないってのも厄介なんだよ。
最終的な着地点の調整はお客様任せっつても諸々を全部グラスの中にぶち込んだ状態からスタートがお約束のレシピじゃ初手からオーバーランしてた場合に取り返しがつかないし。
いいよ別に、このカクテルにそこまでの期待は端からしてねーし、ってのもなんか悔しいじゃん?
どうしよう?
わからなくなってきた。
逆に聞きたい。
「ねぇ?オールドファッションドってなんですか?どうすりゃいいんですか?何が正解ですか?」
私は悩みました。
迷いました。
あるいは迷い過ぎてしまったのかもしれません。
しかしておかげでようやく一つの答えに辿り着いたのです。
「よし、全部お任せしよう」
逆に。
そう逆に。
オールドファッションドたるや古典カクテルが近代カクテルとして再定義される以前のスタイルであればこそ、
ルールなんてないんだ。
そういう時代のグラスなんだ。
文献になんて残っちゃいないところでもっと好き勝手、個々に色々やってたかもじゃん?
今は見知れぬ昔のことなら想像力こそ物を言う。
自由なんだ。
I can fiy !!
貴方様が想う貴方様なりのオールドなファッションドをグラスに再現するがいいわよ!
その火を飛び越して来い!
てかイイっしょ?好きでしょ?こういうの。
とんかつ屋でゴマすったり蕎麦屋で山葵おろしたりって一手間とか、ラーメン屋で自分好みの味変トッピングみたいな感じ。
楽しいよね?嬉しいよね?
ハイ!言い訳完了!
正当化に成功したー!
と判定したー!
オレの勝ちー!
いえー。
てなわけで丸投げスタイルが完成したのでした。
それがもう二十年以上も前の話しですからね、一昔、二昔ってなもんでございやす。
今さらコイツを見たことないだぁ楽しいだぁと令和の時代にキャッキャ言うていただけるなぁありがてぇんですがね、
当の本人からすりゃ別段目新しくもねぇ。
あっしにとっちゃあとっくにこいつがオールドファッションドなもんで。
きゃー。
うまい。
ほめて。