3倍自分に酔えるラム
- 2011.09.12 Monday
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それなりに品揃えの充実したBarの店主をも困惑させる一本のラムがある。
非常にマイナーな酒であり、一流と謳われるバーテンダーをもってしても知らなければ一生知らない、
だとしても一向におかしくない存在ではあるのだが、ごく一部の人間を熱狂させてやまないボトル。
その名は「ラ・マニー・エルヴ・ソー・ボア」
TVアニメ 機動戦士ガンダム 第12話「ジオンの脅威」にてシャア・アズナブルことキャスバル・レム・ダイクンは、
一人Barでグラスを傾けつつTVから流れるギレン・ザビの演説を聞いていた。
ギレン「私の弟、諸君らが愛してくれたガルマ・ザビは死んだ!! なぜだ!?」
シャア「坊やだからさ」
あまりにも有名なこの台詞が誕生したまさにその時、シャアはいったい何を飲んでいたのか?
私も手元にあった「機動戦士ガンダム 劇場版メモリアルボックス」のDVDで同シーンを改めて確認してみたが、
ラベルも判別できない、シルエットとしてはボルドーワインのそれを思わせるようなグリーンのボトルから注がれた、
クランベリージュースのごとき鮮やか過ぎるほどに赤い「何か」をオールドファッションドグラスで飲んでいる、
としか言えぬほどに情報量が少ない画だった。(栓をしたまま注いでいるように見えるのは単に作画ミスだろう)
飲みたい・・・シャアと同じ酒が飲んでみたい・・・・。
それは我々にとって長く叶わぬ夢であった。
時は移り2001年6月、ガンダム専用誌として誕生した「ガンダムエース」創刊号にて、
アニメ版でも作画ディレクター及びキャラクターデザイナーとして作品に携わってきた安彦良和先生の手による、
原作にアレンジを加えつつもあくまでも原点の漫画化という、まさにファースト世代感涙の作品、
漫画「機動戦士ガンダム THE ORIGINE 」の連載がスタートする。
そして、ついに、その時はやってきた。
通常単行本版でいう第5巻 ランバ・ラル 前編 97ページ、
新たに書き起こされたあのBarのシーンにて、
シャアの飲んでいたボトルが、その銘柄も鮮明に読み取れるほどに詳細に描かれたのだ。
それこそが「ラ・マニー」である。
正確に言えば「ラ・マニー」は数種類のバリエーションがある酒であり、
その内のどのランクのものを飲んでいたかまでは残念ながら判りかねるが、
ボトルの形状からおそらくは「エルヴ・ソー・ボア」であろうという見解が定説化しつつある。
しかしなるほど北米より南下しベネズエラのカラカスにやって来たシャアに、
あえてフランス領マルティニーク島産のラムを飲ませるあたり、
やはりその衣装からも映画「カサブランカ」に対するオマージュなのだろうか?
しかしあのレイバンのティアドロップを思わせるサングラスは松田優作のそれからきているような気もするし、
となるとやはりオーバー・ジ・アイス(アニメ版はオールドファッションにストレート、漫画版では氷二つでロック)という飲み方といい、
あの赤い液体もアメリカンルビーとするなら当初はオールドクロウかあるいは・・・いや、まてよ・・・例の軍団由来でブランデーなら・・・
いかん、つい酒のこととなると職業病的に思考回路がそっちに切り替わりがちな私だが、
このボトルを前にしては一人のバーテンダーではなく一人の男の子に戻ろう。
安い酒だ、しかしその味がジオン十字勲章ものであることは保障するよ。
シャアの酒を、君に!
ボトルには「eleve sous bois」の表記はない。
直訳すると「樽で寝かせた」の意であり、同社のホワイトと区別するための通称が商品名として認知されている。
その名の通り18ヶ月間の樽熟成を経ており、AOC表記もあるアグリコール規格のラムである。