クラーケンはタコじゃない。

  • 2020.07.02 Thursday
  • 19:00

 

現代よりも現実と空想の境界線が曖昧だった時代。

 

未確認生物に対して、しかしあくまでも科学的、あるいは学問としてのアプローチを試み、活発な議論・研究がなされていたのはおよそ17世紀頃よりの話。

 

その正体はよくわからないなりにも、まだ見ぬ巨大な生物がこの海には存在するらしい。

 

それが同一種であるかも不確かながら、とにかく世界中のあちこちから目撃談だの報告がありまくるんだからいよいよマジでナニカいるにはいるんじゃね?

 

といった論調の最中、1753年にノルウェーの司教エリーク・ポントピダンによって執筆された「ノルウェー動物誌」が出版され、この中で紹介されたとある生物が後の世界を席巻することとなる。

 

そう、

 

「クラーケン(kraken)」である。

 

地元の伝承として解説されたオリジナルとも呼ぶべきクラーケンには、

 

1.海に棲息しているがいったん浮上してくれば島と間違えて上陸してしまうぐらいにとにかく出鱈目なデカさなもんで全貌なんて把握できない。

 

2.その巨大さゆえに巻き込み事故とか起こしがちで船なんか沈めまくりだけれども性格は基本的に穏やか。

 

3.海面に浮上してくる際には角だか触手だかよくわからないがなんだかニョキニョキ生えてくる。

 

4.なんかいい匂いする。

 

5.スミみたいなの吐いたりもする。

 

といった特徴が挙げられていた。

 

各国の学者達は鮮烈なデビューを果たしたニューフェイスの海洋UMAにドッキドキ。

 

その正体を探らんと躍起になり、ある者はヒトデのような生き物だと主張し、またある者はホヤのような生物だと推測した。

 

いやさそれら多種多様な生物が群生的にして個体を成すカヲスな生物だと主張する者も現れ議論は白熱していったが、

 

そんな真摯で熱心な探求者達を他所に悲劇は起きた。

 

すでに発行されていたフランスはビュフォンの「博物誌」を補完する役割も担う形で執筆された、やはりフランスの動物学者ピエール・デニス・ド・モンフォールによる「軟体動物誌」にこのようなイラストが描かれたのは1801年のこと。

 

 

実に魅力的なデザインは今でも模倣されることが多いのでオリジナルを知らずともどこかで見た覚えがある、という人も多いだろうが、これを見た当時の大衆は考えた。

 

「こいつクラーケンなんじゃね?」

 

「クラーケンてこんななんやー」と。

 

正体が不明過ぎて落ち着かないところにデカくて船を沈めてニョキニョキでスミを吐く、といった抽象的で印象的なワードのみを安易に落とし込むには好都合なビジュアルが登場したため、この絵を「クラーケン」であると断定してしまったのだ。

 

だがしかし、この絵は決して「クラーケン」を描いた代物ではない。

 

ピエール・デニス・ド・モンフォールは「クラーケン」なんて書いていない。

 

今一度イラストの下部に注目して頂きたい。

 

「LE POULPE COLOSSA」とある。

 

フランス語で「でけータコ」と書かれている。

 

実はピエールくんはヤベーぐらいの「巨タコフェチ」であり、これは彼の創作による「ボクの考えた最強の巨タコ」の絵なのだ。

 

ピエールくんがどのくらいヤバかったかと言えば、遡って1782年に起きたイギリスの軍艦10隻が絡む失踪事件について「そいつは巨大なタコの仕業だ!そうに違いない!」と主張し過ぎた結果にドン引きされて地位と名誉を奪われてもなお意見を変えず、とうとう飢えと貧困のためお亡くなりになられたほどだった。

 

そんな男が書いた魂の「タコ」を寄ってたかって「クラーケン」だと大衆は決めつけたのだ。

 

マッコウクジラの口から発見された8メートルのタコ足(おそらくはダイオウイカのモノ)に関する1783年の論文に触れて以来魅せられて、憑りつかれた様に巨タコ教に入信し生涯を巨タコに捧げた熱心な巨タコ信者による渾身の巨タコ絵は、

 

しかしてのち、現在に至るも、なんなら「元祖クラーケンのイラスト」として誤認され続けているばかりか、

 

「クラーケン」自体がもうタコであって当たり前の風をして世界に蔓延っている。

 

北欧産のマイナーなれど前代未聞で空前絶後なはずの不思議海洋UMAは、いつしか赤道近くで陽気な海賊と高確率でエンカウントする巨大化しただけの軟体動物といったありきたりな存在となってしまったばかりか、

 

今や海生モンスターの代名詞然として時空を超えギリシャ神話にまで介入する汎用タコ型お手軽クリーチャーに成り下がってしまったのだ。(ハリーハウゼン様は別格ですしデザインが素晴らしいので無罪)

 

いつもそうだ。

 

そうやって大した興味も関心も無い連中によって事実は捻じ曲げられ、オモチャにされた挙句に気が付けば嘘が常識のふりをしてのさばり、逆に真実を語る者を邪険にするのだ。

 

違うか?

 

そうなんだろ?

 

オレがもし、とある酒のラベルにタコの姿で描かれたクラーケンを見つけたとして、

 

「いやー、クラーケンて本当はタコじゃないんスよねー」

 

とか言ったら引くんだろ?

 

「パイレーツ・オブ・カリビアン」観ながら、

 

「いやいやー、イカでもないんだがー」とかツッコミ入れてたら、

 

「うわー面倒くせー」

 

ってなるんだろ?

 

なんやねん!

 

どないやねん!

 

そもそもなんでタコやねん?っちゅー話やで。

 

そら西洋の方々にとっちゃぁタコなんて生物がいかにも悪魔的に見えるそうやけどな、

 

東洋の、とりわけ多くの日本人にとっちゃタコなんざぁ間の抜けた人物を形容するにも使う、どちらか言うたらコミカル属性やねん。

 

んで海産物ですよ。

 

映画なんかでデカいタコが「わー」いうて出てきたところで恐怖するよりも先に、

 

「あー、タコ焼き何人前やろかー?」て考えるんがほぼほぼですわ。

 

んな、所詮は食材ごときに「クラーケン」やことのえらいイカつい名前語られて、まるで海の魔物の代表ですーみたいな面されても、そら通りまへん、通りまへんでぇ、っちゅう話やで。

 

ホンマかなわんわぁしかし。

 

ほんで結局「クラーケン」はどないなカッコしてんねん?やけどな。

 

わからへんねん。

 

せやけどやからこそええねん。

 

なんでもかんでも、それこそ無理くりにでも答えを求めちゃあきまへん。

 

無茶しよるからこんなしょーもない間違いが起きるんやで。

 

姿がわからへんならわからへんで、それがロマンちゅーもんちゃうんかい?

 

ドキドキするやろ?


あれや、

 

「パルプンテ」みたいなもんや。

 

「とてつもなく おそろしいものを よびだしてしまった!」

 

いうてな、


なまじ具体的な説明やら画が無いほうが想像も膨らんでええやろ?

 

な?

 

知らんけど。

 

 

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