国産ウイスキーの出荷量は1980年に34万キロリットルあったそれが、2009年には8.2万キロリットルと激減しました。
ワイン・焼酎など新興勢力の台頭。
不景気を背景とした飲み控え。
少子高齢化と若年層を中心に加速するアルコール離れ。
それらしい文言を列挙しただけでも考えられる要因は様々ですが、
Bar業界に限って言えば、特にここ十五年はシングルモルトスコッチに代表されるハイエイド商品が人気を集め、
ウイスキーという大きな分類で見れば、本当にウイスキーを求める方々の需要というのはむしろ増加傾向にありました。
つまり、減ってしまったのはあくまでも国産の低価格帯に位置する商品群であり、そのメインたる消費者層は「キープで水割り」に代表される、
実は端から飲む酒はウイスキーでなくとも構わなかったとする、質より量派の方々のそれと、
これに替わる新規消費者層の開拓ができない現実こそがこの著しい出荷量低下の最大要因と推測できます。
そもそも現代において何ゆえウイスキーなる飲料がマイノリティーとも言うべき一部の層のみを激しく魅了しつつも、
広く大衆からは受け入れがたい存在となったのか?
これはひとえにテイスト的にしろ、実際のアルコールの強さからしても、
先に述べた国民的規模の酒離れを踏まえて考えれば、
ウイスキーが酒らしい酒であるからだと言えるでしょう。
逆説的に捉えれば、要は酒っぽくないウイスキーならば、ウイスキーらしからぬウイスキーならば売れるであろう、と。
無茶苦茶ですね、そうですね。
だが、しかし。
理非なき時は鼓を鳴らし攻めて可なり。
無理を通して道理が引っ込んだ光景が、ただいま巷でブームの「ハイボール」というわけです。
けっこう長く続いていますね、今回のハイボールブーム。
特別持てはやされもしなければ顕著に廃れることも無く、長きに渡って親しまれ続けてきたカクテルですが、
第一次ブームより継承され現在も多くのBarでスタンダードとされる通常のレシピはウイスキー1に対してソーダがおよそ2〜2.5。
メーカーが推奨するただ今ブームの新ハイボールは1対3〜4。
しかもホームグラウンドが居酒屋であり、基本をジョッキとするグラスの大きさと氷の質も加味すれば、否、しなくとも、
一言で言えば薄い。
以上。
二言は必要ない。
「薄利多売」にして「薄味多売」。
もちろん我々にとってもメーカー様が売上不振で体力を削られるのはいただけない状況ですし、
これをあくまできっかけに、ウイスキーやBarに興味を持っていただければ、などという希望的観測に基づく意見があることは知っています。
そう願います。
そもそも元祖ハイボールブームのおかげでBarが大衆化した今日があるわけなのですが、しかし。
そう遠くない過去を振り返っても、一旦下げられたアルコールに対する耐性がそれ以前を上回り人気と消費を伸ばした例など過去に一度も無いのが現実。
特に件のウイスキーとカクテル、なのですが今回ウイスキーに絞るとともに、
このあたりの事情には、なかなかに複雑な経緯もあるものの、
ことBarで提供されるウイスキー一杯あたりの量の推移だけに限ってみれば、
ほんの一昔前まで一杯を60mlとする店も少なくなかったのがしれっと45mlを基本とするようになり、
その飲み方も水割りが主流とされるうち、現在はほぼ一杯30mlで固定されています。
もうカクテルベースにしろ一杯売りにしろ、40歳以下で30ml以上を基本としてるバーテンダーは絶滅危惧種状態でしょう。
次第に量を減らしアルコールを削りとされてきた節目節目を改めて見直せば、
そこには必ず消費拡大を狙った改革的販売促進運動がハッキリ見えてきます。
基本の公式はいつも同じ。
もっと売ろう、もっと飲ませよう、飲まないヤツはなぜ飲まない?強いから?濃いから?多いから?
じゃあ薄めよう、じゃあ減らそう、といった流れ。
きっかけを作るどころか実質的には草の根運動で地道に酒の魅力を説いてきた名も無きバーテンダーのそれを、
一発逆転の宣伝戦略で刹那的な人気と消費を掻っ攫った後、世の受け皿ごと入れ替えてきた実績。
特定のメーカーを名指しで批判しかねないのでボカしますが、
果たして一連の流れは薄めたから飲まれなくなったのか?飲まれなくなったから薄めたのか?
さらには、美味しいから飲んでほしいのか?飲ませたいから美味しいと言ってるだけなのか?
売上優先は判りますが、もっと飲料としてこだわるべきところを重視せねば、
結局はまた一過性のブームで飽きられ廃れていくのでは?
強い酒を飲めば偉いなんて言うつもりはありませんが、いささかアプローチの仕方が露骨過ぎて過去のそれを繰り返しそうな気がしてなりません。
個々に合った飲み方を、それこそ一人一人のアルコール耐性と好みのテイストに合わせつつ、気長に提案できるBarの営業と違って、
大衆相手に即効性と、何よりも結果を出さなければ意味が無い企業戦略という、根本的な目的意識の違いがあるのも理解はできますが・・・。
などと、大企業様相手に弱小Barのバーテンダーが吠えたところで何となるものでもなし、
結局ボヤキであいすみません。
と、最後に一つ予言というほどでもない戯言を記しておきましょう。
もはやさすがにこれ以上は薄めるわけにもいかなくなったウイスキー。
すでにその他飲料で割るフレーバー系はカクテルの法則を破壊しつつマンネリ気味。
ジンジャーハイボールって何ですか?コーラハイボール?
一方ウイスキー以外の商品郡は一足飛びにノンアルコール化し、市場は益々酒を敬遠しつつあります。
ま、すでにノンアルコールハイボールなんて商品もございますが、
それでも売らなきゃならないウイスキー。
次に来るのは焼酎と同程度、アルコール25度〜30度にして味わいそのままとする、
「低アルコールウイスキー」と見た。
いや、先に味わいを軽めにした「ライトウイスキー」かな?
当たったからといって何もいりませんが、外れたからといって責めないでくださいませ。
ウイスキー・・・。
その語源に関してはお決まりの諸説様々なわけですが、辿ればおおむね「命の水」なる言葉に行き着きます。
本当に水になっちゃ意味ないです、やっぱり。