シナモン・スティック
- 2015.03.01 Sunday
- 04:15
三菱鉛筆は三菱グループではない。
チラリズムなる言葉の始祖は浅香光代である。
トイレットペーパーの三角折りはアメリカの消防士に由来し正式名はファイヤーホールド、という話は全くのデタラメだが心優しい私はこれを流布していたベッキーを決して責めたりなんかしない。
世の中には知らなくてもよいし知っていたとしても役に立たない情報がいくらでもあるが、
どうかこれは知っておいてほしい。
「シナモン・スティックは食べちゃダメ」
シナモンとは木である。
日本で言うところの「ニッキ」、漢方に用いられては「桂皮」と同じとされているが、
近縁種でありながら厳密に言えばこれらは異なるとかどーのこーのはこの際面倒だから省く。
とにかくこの木の樹皮を剥いで乾燥させスティック状に加工したそれを、ちなみにフランス語ではカネールと言う。
当店ではホット・カクテルに添えてお出しする機会も多いが、
つまりは木の皮なので食べて食べられないこともないけれどもこの場合の食べられるとは「食す」ではなく「食らう」という行為が可能であると示唆しているに過ぎず、
すなわちこれを噛み砕くことは木屑を口中に頬張るのと同義であってなぁんてこったいコイツはとんだ一人罰ゲームだゼーなのでやっぱり素直に食べられない、だ。
なにしろ不味いし。
不味いしあとめっちゃ辛いしヘタすりゃケガするし。
食用に用いられるシナモン・パウダーは文字通り粉になるまで磨り潰し、適量を摂取するに最適化したものであって、
ダイレクトにスティックのままアタック、名付けてダイレクト・スティック・アタック(D・S・A)してはダメージが大き過ぎるのだ。
そろそろ二十年になろうかとしている私のバーテンダー人生を振り返るに過去二名のD・S・A被害者を目撃し、
そして先日、新たなる三人目の尊いD・S・A犠牲者を、これを未然に防げなかったことは誠に遺憾であるとともにこれ以上のD・S・A被害を食い止めるべく、
今回この記事を書く決意をした所存にございますれば、
それでは一体どのように使用するべきかについてだが、
これはあくまでも風味と香りをドリンクに移して楽しむものであるからして、
まずはグラスの中にとぷりと沈めて、
あるいは指先で軽くつまみ(シールが巻かれているモノはそこを持ち手としてこれを剥がそうとしない)ティースプーンよろしくクルクルと回しながら、
その際、頬杖でもついて軽く小首をかしげるようにしつつ目線だけ落とす具合でややアンニュイな表情を浮かべ脳内においては村上春樹風に「完璧なシナモン・スティックの回し方なんて存在しない、完璧な絶望が存在しないように、ね」などと思い描きながら必要以上にゆっくりとした動作を意識すれば雰囲気もダダ漏れにオサレ度もアップして小悪魔テイスト愛されゆるふわモテコーデの決め手は今時シナモンのミモレ丈でキメちゃえばこの春きっと素敵な恋が待ってるよ特集は付録も見逃せない特大号だよ絶賛販売中、である。
浸しておくなり回すほどに香りは液体へと移るので、後は個々のお好み次第、良きところで引き上げるなりもちろんシナモンが苦手な方は端から使う必要は無い。
四の五の言ったが、だからつまり香り付きのマドラーみたいなもんです、まぜまぜしてね、食べちゃダメよ?ってだけのことで、相変わらず無駄に長々と綴るのが、それが私の芸風だしお好きな方がいるから、いやたぶん、いいえきっと、そう信じたい、ううん、信じてるよ、ワタシ、
てか聞こう。
聞いて?
知らないことは恥ではない。
いや、事と程度によるけれどもコレに関しては恥ではない。
特に飲食関連においてはカウンターの上で、あるいはテーブルの上で、
はたしてどう使えばよいものか、どう振舞うべきが正しいか、未知の「?」に遭遇することも決して少なくはないだろうから。
そしてそれを尋ねるに躊躇する気持ちが分からなくもないからこそ、
聞いてください。
「今更」なんてことは何一つとしてございません。
お役に立ちたくて此処に居ます。
その為のサービスマンなのだから。
実践の場ではあるけれども同時に学びの場でもある。
それがBarのカウンター。