三蔵法師は男です。
- 2017.06.01 Thursday
- 00:34
ドラマ「西遊記」(1978年)で三蔵法師役を務めた夏目雅子の影響が強く、以降に制作された作品においても三蔵法師というと、
例えば93年版の宮沢りえや2007年版の深津絵里のように、いずれも名だたる女優さんが演じてきたことから、
三蔵法師=女、と勘違いしている人がいるようですが、
紛れもなく三蔵法師は男です。
そもそも三蔵法師とは三蔵、つまり経蔵・律蔵・論蔵からなる仏教において重要な三つの聖典に精通した僧侶(法師)を指して使う一般名詞であり、
その実務は翻訳を主とした、特に当時はインドから経典を持ち帰って来た功労者をこう呼んでいました。
ですからして件の三蔵法師以外にもこの肩書きの人物が複数存在しているならば、
より特定して呼称するには個人の戒名を含んだ玄奘(ゲンジョウ)三蔵とするべきなのですが、
どの道オッサンなのです。
しかしてなにゆえ三蔵法師を女性が演じるようになったのでしょうか?
そもそもは中国・インド間を歩いて経典を持ち帰った屈強なお坊さんのお話を脚色して作ったのが「西遊記」ですが、
完成した最古のテキストとされているものでも実際の旅からは千年近くも経過した1592年の「新刻出像官板大字西遊記」であり、
その間においては講談や雑劇といった民間伝承にて受け継がれていた物語の中の三蔵法師なるキャラクター像もまた、それ自体が大きく変化してきました。
事の真偽はさて置き、魑魅魍魎が蔓延るアドベンチャーな道のりを、こちらも人外のお供を引き連れて旅をするのに、
そこだけ史実に基づいて「三蔵法師はタフガイでした」では悟空たちの出番がなくなってしまいます。
よりエキサイティングなストーリー運びを目指す都合上、三蔵法師はか弱き存在として設定されたのですが、
時が経つにつれ次第に脚色はオーバーになって、
色白・美男子・何かあれば気絶しちゃうほど華奢なくせをして頑固で意地っ張りでお人好しなところに加えてドジっ子属性という、
え?なにそのヒロイン要素?
と実在のモデルとは大きくかけ離れた、理想的な守ってあげたくなっちゃうマドンナ的キャラクターとなってしまいました。
これが日本に伝わった頃には、
「女みたいなヤツだな?」
「もはや女でも良くね?」
と、
物語自体はフィクションでも、玄奘三蔵なるは実在した人物であることがさほど認知されていなかった日本だからこそ生まれた発想であり、
実現した大胆なキャスティングだったわけです。
しかし、なんと言ってもイメージ的には決定打となったのが、
やはり夏目雅子の三蔵法師ですが、
じつはそれより以前、
すでに女性版三蔵法師が誕生していました。
そもそも日本テレビがドラマ制作をするきっかけともなった作品が、
1977年に公開されたミュージカル「マチャアキのそんごくうの大冒険」です。
その配役で三蔵法師を堀江美都子が務めており、
三蔵法師=女性の下敷きはすでにこの時できていたのです。(堀江美都子は堺正章と同じ事務所でありバーターであったとしても)
とは言え、ドラマにおける夏目雅子の採用は最初から予定されていたわけではなく、
初めは歌舞伎役者の坂東玉三郎にオファーしたところ、これを2秒で断られてしまったためにやむなく考え出されたアイデアだったそうです、
が、
いずれにせよ、
そのおかげで、
これ以降も、
歴代の三蔵法師役を数々の女性が演じてはいますが、どの三蔵法師も性別が男性という歴史に基づいた設定は揺ぎ無く、
女性が演じることは、華奢でか弱く、ともすれば女性にも見える、というあくまでも演出なのです。
あらためまして覚えておきましょう。
三蔵法師は男なのです。
しかしどう見ても女性(そりゃそうだ)、しかも綺麗どころばかりを選りすぐって演じさせてきた日本独自の西遊記文化は、
特に中国では、偉大な僧侶の性別をイタズラに改ざんし弄んでいるとして抗議もあったそうです。
どうやらあちらでは、いかに線の細いキャラとはいえ、これを女性が演じるのは、
実は一休さんはギャルでした、
ぐらいに受け入れがたいお話しだったようですね。