いただいたマックブックプロの異変には、実は早くから気づいていました。
モニターが少し汚れているな、と日常的に画面を拭いていたその箇所が、次第に、しかして確実にちょっこすおかしなことになっていったのです。
拭けば拭くほどに汚れが広がっていく、というかもうこれは外部的に付着したナニカではないと、そう確信するまでにはあまり時間を有しませんでした。
焦る気持ちを抑え込みながら早速電脳にアクセスして私は安堵しました。
なぜならトラブルが発生したことに変わりないとはいえ、同様の症状と対処法に関する情報がネット上には溢れかえっていたからです。
そう、まるでそれは乳歯が抜けて永久歯に生え変わるを怪我だの異常だのと騒ぎ立てないのと同様、マックブックプロ使いとしては至極当然の通過儀礼のごとき些末な現象だったのです。
要点は以下の通り。
特定の時期に生産されていたマックブックプロはモニターのコーティングが著しく剥げやすいという仕様になっており、あくまでも初期不良ではないとしながらも事実上非を認めたからこそアップルは無償修理で対応してくれる。
なるほど。
あまりにもサクサク動いてくれていたものだから私の頂いたマックブックプロがそう古いものとさえ感じていませんでしたが、どうやら該当機種だったようです。
その後にとるべき行動の一挙手一投足にいたるまでをつぶさに紹介してあるサイトは、ブログは、ごまんとありますからして、
一刻も早く一人前のマック使いになりたい私は迅速に行動を開始しました。
まず調べたところによると修理の依頼方法は大きく分けて二つ。
郵送で送るか、あるいは最寄りのアップルストアに持ち込むか、です。
私は通勤の際に表参道にあるアップルストアの傍を毎日ニアミスしていますので後者を選択。
となるとネットで日時を指定・予約して準備完了です。
後日。
負傷した相棒を抱え、いざ参らん。
「アップルストア 表参道」
写真は帰宅の道すがら深夜に撮影したもので、この時は補修作業をしていたのでしょう、作業員の方もいらっしゃいますからそのスケールもわかりやすいかと。
おそらくは5階建てのビルに相当するであろう容積はけっこう広めのワンルームマンションに改築しても20部屋は優に確保できそうなスペースを地上一階・地下一階のわずか2フロアのみにして、おまけにこれがほぼ吹き抜け構造なんて贅沢仕様よりなにより全面ガラス張りとかいう年間の冷暖房費と管理維持費を想像しただけでも卒倒していまいそうなパラメーターの全てをオサレに全振りしたかのごとき建物を見るつけ、私はなぜか毎度のごとく不思議な脱力感に襲われ特大のため息を止められないばかりか、ただならぬ狂気、のようなものさえ感じてしまいます。
入店してつつがなく段取りを踏み、地下に降りて担当者を待っていた私はそのわずかな間で店内の空気中に含まれるオサレ濃度の高さに当てられて軽い眩暈を覚えていました。
周囲を見回してみると揃いのTシャツでかろうじてスタッフと判別はつくものの、溢れ出すフリーダム感がいかにも奔放そうな人達が、接客中のそれを除いては皆いちおうにiPadをいじりつつ楽し気に談笑している様は、申し訳ないがとても勤務中の態度とは思えないなどと苛立つ私こそがどうやら時代遅れの場違いで、おそらくこれがグローバルなワーキングのアレ的なソレなのでしょう。
まるでインターナショナルスクールに体験入学に来た田舎の学ラン中学生のような居心地の悪さのまま所在なく過ごしていると、ようやくやって来た担当者もまたドレッドヘアだのヒゲだの攻め気味メガネだのとフルアーマー化していて、キミそれ逆に無理して自分らしさを絞り出そうとしてない?大丈夫?な感じに自由な方でした。
そもそもネット予約をした時点で用件の概要は伝えてあるので話自体はスムーズに進みました。
が、しかし、
持参したPC本体のシリアルナンバーを照合した辺りから少しずつ歯車が狂いだしたのです。
「状態はわかりました。修理は可能ですがこちらの本体は無償交換の期限が切れてるんで料金が発生しますけど?」
なぬ。
ネット上には無償修理の手順と成功談はあったが期限切れだったなんて報告は見受けられなかった。
頂き物がゆえにどうやら私は当然のごとく与えられるはずの機会、それそのものを失ってしまっていたようだ。
いやさそもそも初期不良も同然の不手際であれば期限を設けることこそがおかしくないか?
などとゴネてみたところで始まらないのだろうし、そんな勇気を持ち合わせていない私はほぼ考える間もなく返事をした。
「有料でもけっこうです、お願いします。」
「はい。ではこちらのパッドにサインを・・・」
ちょっと待て。
てっきり私はそうなると次にくるのは修理の内容とその費用に対する説明とばかり思っていたが、それらを省いていきなり話を転がされ始めたことにいささかの不安感と抑えられない猜疑心を覚え言葉を挟む。
「あの、ちなみにですけど費用ってどのくらいかかるものですか?」
「あ?えぇ、こちらだと・・五万・・・」
五万?!
いやいやいやいや。
高くない?
値段じゃなくて。
いや、値段なんだけど。
費用として。
初期不良がどうのは置いといても、たかだかモニターのコーティング不良でやんスよ?
やっても薄皮一枚交換するだけのことでしょ?
あれですか?
マックブックプロのモニター表面は肉の部位で言ったらヒレですか?シャトーブリアンですか?
五万てなんなら新しいノーパソ買えるやん。
技術料?
いやなんのだよ?
色々あるのかもしれない。
諸々あるのかもしれない、
が、
私的には到底納得のできない金額に私は、
「じゃぁけっこうです、すみません。」
と修理の申し込みを断った。
ケチと思われようがいい。
言い訳と捉えられても。
だが、肝要なのは納得なのだ。
私は納得ができなかった。
ただそれだけのこと。
「あ、はい」
別にどっちでもいいけどね、ぐらいの軽いリアクションの担当者に私は聞いた。
「ちなみにですけど、これ、じゃぁ、逆にコーティングを全部剥がすとかなると何か手っ取り早い方法とかってありますかね?」
担当者は少し気まずそうな笑みを浮かべながらこう言った。
「いやー、綺麗に?というか全部剥がすとか無理ですよ」
あん?
言ったな?
はーん。
そーなんだー。
もう、私はこの時点で覚悟を決めていた。
ムキになっていたのを認めよう。
それには理由があるのだが、その説明をするためには少しばかり時間を遡らなければならない。
どうでもいいけど長くなったからつづきます。